武力行使になった時の拉致被害者の生命の安全問題も、「トランプ大統領と拉致被害者家族、面会する方向で調整」だけでなく、主なメディアが大々的に報道しないと、国民の判断を大きく誤らせる方向へ誘導する重大な誤りを犯す危惧がある。

 

メディアは、国民に拉致問題に関する現段階の「真実(全体像)把握のための多面的多角的な考察に資する、質が良くて相互に異質性の高い事実情報群」を提供すべきだ。

 

1.主なメディアは、「拉致被害者の一日も早い帰国」という家族の切なる願いに誠意をもって常に正対し、その一環として過去2回の面会(ブッシュ、オバマの2代連続)が拉致問題解決にどう貢献したか、面会の成果について評価の報道をしなければならない。そうでないと、権力担当の人気取りのためのスタンドプレーの道具と化すことと区別がつかないものになる。スタンドプレーであれば、安倍首相が北朝鮮問題で「対話のための対話には意味はない」と強調していることと全く等価で、「面会のための面会には意味はない」ことになってしまうし、真剣に考えている拉致被害者家族やその支援者をはじめとした善良な国民を小馬鹿にしていることになる。スタンドプレーでなければ、成果について真実を報道できるはずだ。

 

 「面会予定」の部分だけを切り取って報道すると、善良な市民の多くは「部分=全体」と思い込んで、良い方向へ動く期待とそのお膳立てをした権力担当に良いイメージを持つ。そう導くのが各社に報道させる情報源側の真の意図であれば善良な国民を小馬鹿にしたことになるので、メディアは「部分=全体」と思わせる情報操作を行って、情報源側の真の意図に向けて国民の思考を誘導する片棒をかついではならない。こういう疑問の払拭のためにも、過去2回の「面会」の評価を、成果の事実に基づいて報道しなければならない。

 

 

2.「面会」を大々的に報道するのであれば、(戦争に向け、予算を大幅に増額して準備万端に動いている現政権なので)北朝鮮と戦争状態になれば、拉致被害者の命が確実に危険にさらされるという、はるかに重要で重大な危惧の警鐘を、主なメディアは鳴らし続けているべきなのだが全く耳目にしていない。

 

日本の権力担当は全ての選択肢がテーブルの上にあるとの米国の立場を一貫して支持して日米は100%共にあると言い続け、かつ圧力の強化一辺倒なので武力行使の危険が高まっていることは衆目の認めるところだ。

戦争になれば「日本国民の平和で幸せな暮らし守る」の実現は不可能だ。自衛隊員含めて善良な一般国民に甚大な被害が確実に出、犠牲者の家族等の平和で幸せな生活が破壊されるのは太平洋戦争で証明済みだ。経済最優先、経済の好循環などの触れ込みも、戦争状態になればもちろんご破算だ。

また、拉致被害者を含む北朝鮮の善良な市民、無実な市民への戦争による甚大な被害も出るはずだが、権力担当の口から危惧する話は一回も出ていない。

 

もともと善良な日本国民も北朝鮮国民も敵対関係でないのに、敵にさせられてしまっているのだ。

ナチス幹部へルマン・ゲーリングの言葉「人々を戦争に引きずり込むことは簡単なこと。(国の政策を決めるリーダーたちが)国民に対して、『我々の国が攻撃にさらされているこのときに、愛国心の欠けた平和主義者たちが国を危険にさらそうとしている』と非難しさえすればいい」(情報源:「戦争を起こさないための20の法則」(鎌田慧監修ピースポート編、ポプラ社、2003)や、[「敵の指導者は悪魔のような人間だ」といって「指導者の悪を強調することで、彼の支配下に暮らす国民の個人性は打ち消される。敵国でも自分たちと同様に暮らしているはずの一般市民の存在は隠蔽されてしまう」](情報源:「戦争プロパガンダ10の法則」,アンヌ・モレリ著,草思社,2002)

北朝鮮問題の場合も完全に正しい。

この20~30年の間にあちこちで起こっている戦争をみても、一方の指導者が敵とみなしているもう一方の指導者の体制崩壊だけしか眼中になく、一般市民の命については時には誤爆という言い訳で片づけたり敵への攻撃成果のみ報道にのせて市民の犠牲についてはほとんど触れていなかったりだ。つまり、一般市民の命は虫けら扱いされるのが戦争だ。日本が戦争状態になれば、この一般市民に私はもちろん該当するし、私につながる人々、他の一般市民やこの市民につながる人々も可能性は十分ある。

だから、戦争状態になってからでは、善良な日本の一般国民も拉致被害者がその中にいる北朝鮮国民も、平和で幸せな暮らしは完全に手遅れになる。

北朝鮮に拉致され帰国した蓮池薫氏の実兄蓮池透氏も北朝鮮を攻撃すべきだという意見もあるが、体制が倒れれば拉致被害者がなきものにされる危険もある。被害者の安全を考えてほしい」と訴えている(情報源:朝日新聞デジタル2017年8月23日,蓮池透さんが拉致問題で対談本「首相がしたことは…」)

「面会」を大々的に取り上げるのであれば、「戦争状態にならないように主張する報道」はるかに力を入れなければならないはずだ。

 

拉致被害者家族会・救う会は新運動方針として、「全被害者を返すなら日本は、(日本が独自に)かけた制裁を下ろすことができることなどを見返り条件として実質的協議を持つこと」、「北朝鮮が秘密暴露をおそれるなら、被害者らが帰国後、反北朝鮮運動の先頭に立つことはなく、静かに家族と暮らすことを約束することもできる」等を掲げている(情報源:家族会・救う会新運動方針(最終版),救う会全国協議会ニュース20170219)。また、帰国した拉致被害者蓮池薫さんは「拉致を解決すれば見返りを与えることができると伝える必要がある。例えば電力事情の改善など経済協力という形で、北朝鮮に必要なもので核やミサイルの開発につながらないものがあるはずだ」と指摘し、「帰って来てこそ人生を取り返せる」と話している(情報源:「帰国した拉致被害者 蓮池薫さん “突破口開く新戦略を”」,NHKNEWSWEB20170325)

 拉致被害当事者のこれらの声に真摯に耳を傾けて権力担当が取り組んでいる事実を報道したり、報道機関が率先して権力担当に働きかけるなどして、報道機関のあるべき姿を追い求めている姿はみえてこない。

 

 

☆ 放送に関して放送法第一条第二号に「真実を保障する」、第四条第三号に「報道は事実をまげないですること」がある。「放送法逐条解説(改訂版)」(金澤薫編著,情報通信振興会,平成18年4月)によれば、第四条三号は「真実の保障を具体化したもの」である。

「真実の保障を具体化した事実」という場合の「事実」というのは「真実にできるだけ近い事実(or事実群)」であり、それには 「多面的多角的な考察に資する、質が良くて相互に異質性の高い事実情報群」が当てはまる。